粒や木(ツイッター)

ex-藤子文庫(モトフジ)の呟きです

ひもの道 第三回「沢庵漬け」

実をいいますと、沢庵作りは魚の干物を作り始めるよりも前から始めていたのですが、干物用に買ったネットが大根を天日干しするのに使えることに気がつき、この「ひもの道」でもとりあげることにしました。ひもの道は意外と道幅が広いのかもしれません。

沢庵は大根を沢庵液に漬ける前工程として、大根がふにゃふにゃになるまで天日干しをします。保存用に乾燥させ、同時に旨味も凝縮させるという発想は魚の干物と同じなんでしょう。考えてみれば梅干しなんかも同じで”干す”というのは昔からある調理法のひとつなんだな、と改めて思ったりもします。

繰り返しになりますが、実をいいますと、沢庵作りのはるか前から私は梅干しも漬けているのですが、これまでは最後に天日干しする工程がネックになっていて、干す工程を省いた梅漬けで我慢していました。でも今年からはこのネットを使って本物の梅干しを作ることが出来るのだ。そう思い至った時には、なんだか長い国境のトンネルを抜けたような気持ちになりましたよ、マジで。

それで沢庵なのですが、それまでは柵(さく)にカットした大根を冷蔵庫で乾燥させていたところを、まだ寒さの残る三月末に、ネットに入る程度の小型の大根一本をまるまる干すことに挑戦してみました。

自宅のベランダの日当たりの関係上、私の干物は、魚の場合でも寒い時期の夜風に晒すというのが基本で、少し気温が上がってくるとその代用に冷蔵庫での乾燥がメインになります。(この文章を書いている5月下旬ではすでに完全に冷蔵庫乾燥に移行しています)今回の沢庵も最初の二、三日夜風で干した後は冷蔵庫乾燥に切り替えました。その後一週間ほどでしょうか、程々に乾燥した大根を袋状のジップロックに入れ、酢と砂糖と色付けのウコンを合わせた沢庵液に漬け少し重しをして放置。そんな具合で大根のミイラのような沢庵漬けが完成しました。

皮をむかなかったせいか、ウコンの色が表面にしか着いていないのは御愛嬌ですが、ちょっと思い出したことが合って、わざと沢庵を厚切りにしてみました。ボリボリと音を立てて厚切りの沢庵を齧ると、ほんのりと辛味の残った沢庵液の染みた大根の味が”歯ごたえ”と共にアゴから脳へダイレクトに伝わり、沢庵という食べ物は、間違いなくその”歯ごたえ”と”音”も味の一部なんだということを実感しました。

沢庵漬け

そのちょっと思い出したこと、というのはちょうど一年ほど前に観た一本の映画でした。作家水上勉の山での暮らしを描いたエッセイを、沢田研二主演で映画化した「土を喰らう十二ヶ月」。劇中の料理を料理研究家土井善晴が担当したことでも話題になっていました。この土井善晴という人の料理に対する考え方は”素材を活かす”コトをどこまでも突き詰めるといったようなものだと思うのですが、この映画にも随所にそのような料理が登場していました。そのなかでも印象的だったのが、主人公が近所のおばさんから振る舞われた厚切りの沢庵で、画面で見た感じでも一センチかそれ以上のあるような厚さの沢庵をボリボリ齧る様子がなんとも美味しそうだったのです。

私が沢庵漬けを作ってみようと思ったのがその映画が切っ掛けだったかどうかはよく覚えていないのですが、土井善晴がその画面から何を伝えたかったのかは、実際に作った沢庵を齧ってみて、少し分ったような気がしました。

それは、沢庵は厚切りに限るということです。

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